参加22チームのうち、半数の11チームまでが過去に全国出場(全日本学童マクドナルド・トーナメント)あり。勝ち進むのが容易でないのは毎年のことながら、この第12回大会のベスト4で唯一、全国出場のないオール麻布(東京)にも勝者たる理由が確かにあった。準決勝の2試合目のリポートは、試合評とヒーローに続いて、『学童野球メディア賞』にも値する敗軍のストーリーをお届けしよう。
(写真&文=大久保克哉)
※学年未表記は新6年生
■準決勝2
2月15日◇半田公園野球場C面
オール麻布(東京)
000000=0
00104 X=5
豊上ジュニアーズ(千葉)
【麻】吉本、小倉、木下-園山
【豊】加藤、蛭間-関澤
本塁打/後山(豊)
【評】背番号1の両先発右腕が3者凡退で立ち上がり、試合は中盤戦まで引き締まった。豊上の加藤豪篤は5回までに許した走者は1人のみと、ほぼパーフェクトの快投。対する麻布の吉本怜平は2回裏、バックのミスから一死二、三塁のピンチを迎えるも、無失点で切り抜けるなど粘投が光った。試合が大きく動いたのは5回裏。後山晴のサク越えソロで3回に先制していた豊上が、四死球や敵失に乗じて打者10人で4点を奪い、5対0に。蛭間悠智主将が救援した6回表には、左翼守備に回っていた増渕碧人にダイビングキャッチが飛び出すなど、堅い守りでそのまま逃げ切った。
〇豊上ジュニアーズ・斎藤欣也監督代行「先発の加藤が良かったです。この代は去年と違って打てない。そこでどうするかが課題ですけど、守備で崩れるチームではないのでそこまで心配はしていませんでした」
●オール麻布・木下慎也監督「先発の吉本が乗ってましたね。去年の代から投げてきたので経験も大きいかなと思います。中盤戦まではやり切れたので、またがんばってリベンジさせてもらいたいと思います」

豊上の加藤㊤は5回1安打で四死球と失点なし。麻布の吉本㊦は4回2安打1失点

昨夏の全国を経験している豊上の二遊間コンビ。玉井蒼祐㊤は再三の二ゴロをすべてアウトに。後山㊦は3回に先制ソロ

4回表、麻布は三番・木下が三塁強襲ヒットでチーム初の出塁

5回裏、苦しい守りが続いた麻布は2度目のタイムで木下監督がマウンドへ㊤。豊上は髙野範哉監督が職務で不在。最古参の斎藤欣コーチ㊦が代行を務めた


豊上は最後まで無失策。6回には左翼線の飛球を増渕がダイビングキャッチ

―Pickup HERO―
キーマンの貫録!!決勝ソロアーチ
あとやま・はる
後山 晴
[豊上新6年/遊撃手]
現6年生の代から正遊撃手となり、昨夏の全国大会もフル出場で16強入り。後山晴は、その後も順調に成長しているようだ。
「バッティングは好調です。昨日(土曜)の試合でもランニングですけど、ホームランを2本打ちました」
この準決勝では、3回表に放った低い弾道のライナーが左翼の特設フェンスを越えていった。オール麻布の好投手・吉本怜平からの先制ソロアーチは結果、決勝弾に。
「打ったのは、インコースの甘めの球でした。打った瞬間にいく(サク越え)とは思わなかったですけど」

決して大きな身体ではないが、1学年上の代に入ってもパンチ力は光るものがあった。またそれ以上に際立っていたのは、遊撃守備の軽快さと堅実性。新チームとなって迎えた昨秋の関東大会(4強)では、100㎞超のスピードボールも投げたが、その後に肘を痛めてしまったという。
「でももうそろそろ、ピッチャーもやれるところまで回復しているので、がんばりたいです」
3年連続7回目の全国出場へ。“房総の盟主”豊上ジュニアーズの命運を握るのは、この背番号6に違いない。
―Good Lozer―
新6年生9人+1で一丸!!強豪を脅かす
第4位
あざぶ
オール麻布
[東京・港区]
「いわゆる『怪物クラス』の選手はいないんじゃないかなと思いますけど、粒ぞろいかな」
身長188㎝の木下慎也監督は戦前、そう言いながら選手たちを穏やかに見下ろしていた。柔和な表情は試合中も変わることなく、前向きな言葉で選手たちの背中を押していたのも印象的。そして「粒ぞろい」は誠だった。

木下監督㊤は父親監督で5年目。息子・蒼之㊦の三塁守備に代表されるように、守備の基本が選手たちに浸透していた

全国大会の常連の豊上ジュニアーズを相手に、4回まで0対1の好勝負を展開。実績では大きく劣るも、端から気圧された様子もなし。その最たるところが、先発した背番号1の吉本怜平(=㊦写真)の投球だった。
「相手は強いので、自分のベストを尽くして勝ち負け関係なく、良いピッチングができたと思います」
軸足一本で確実に立った状態から、本塁方向へ真っすぐに踏み出し、弧の字の上体から右腕が強く振られていく。基本に忠実なフォームから繰り出される速球の最速は「102㎞(野球塾で計測)」。時折りのクイックモーションも交えた緩急も効果的で、制球は常に安定していた。

初回の守りを3人で終わらせるも、2回はバックのミスやバント安打などで一死二、三塁のピンチに。だが、落ち着いて後続をフライアウトに仕留めて切り抜けた。続く3回は、先頭に一発を浴びてから、以降5人をシャットアウト。
「守備に関しては、エラーはいつも出るものだと思っているので。(アウトを)取ってくれたらファインプレー、みたいな気持ちでいます」(吉本)

どの選手も投げ方がきれいで、内野手のゴロ捌きは基本に忠実。遊撃手の横山諒は華麗なランニングスローもあり、中堅手の阿曽謙誠主将(=㊤写真)と左翼手の阿刀田慧はヒット性の打球を好捕するなど、バッテリーを盛り立てた。
5回から登板した木村隆聖(=㊦写真)は、結果として大乱調で失点を重ねた。それでも投球フォームと伸びのある速球は、吉本と同じくポテンシャルと将来性を訴えてきた。またワンバウンドの投球の大半を体で止めた捕手、園山滉也のスキルも際立った。
「今日のバッテリーは乗ってましたね。気合いも入ってました」(木下監督)

献身的な10人目
打線は結局、三番・木下蒼之が4回に放った三塁強襲安打のヒット1本に終わった。だが、四番の園部(=㊦写真)は芯を食った当たりを左右へ飛ばし、九番・小倉弘太郎も相手の好守に阻まれたがヒット性の当たりを左翼線へ。

こうしてギリギリ9人の新6年生たちは、強敵を前にそれぞれパフォーマンスを発揮した。ただそれも、10人目の選手を抜きには語れまい。一人で何役もの裏方仕事をこなしていた新5年生、背番号14の北島光貴だ。木下監督も試合後、率直に感謝を口にしている。
「むちゃくちゃ助かりましたね。彼(北島)は一緒にやり始めてまだ数カ月くらいですけど、普通に新6年生のなかに入ってやってくれましたから」

5回から守備に就くまで、戦況を追いながら裏方に徹した新5年生の北島

実は同日の同時間帯に、新5年生は別で試合があり、北島以外はそちらへ。この準決勝でバット引きにボール係に、イニング開始前の捕手役と、忙しなく動き回った北島も、5年生チームでは一番バッターで二遊間のいずれかを守っている。
「今日は自分から、こっち(準決勝)に来ると決めました」(北島)
新5年生チームのレギュラーが1人だけ、上級生のために自ら1日を捧げる。この事実だけでも、日常のチームのあり様や人々の関係性がうかがえるというものだ。5回裏から、北島は二塁の守備へ。その10人目の選手と入れ代わりで、ベンチに退いた右翼手の松下幸将が、すぐさま大声でナインを鼓舞する横顔もまた印象的だった(=㊦写真)。

オール麻布は、東京タワーのお膝元・港区の連盟に所属している。都心の一等地であるがゆえ、現状は活動拠点と呼べる場所がないそうだ。「区のグラウンドを使えるのは月に2、3回。あとは都の公営グラウンド(抽選とキャンセル待ち)か、練習試合に呼んでいただいて何とか」(木下監督)
野球環境には日本一恵まれていないエリアかもしれない。それでも、選手はこんなにも育ち、チーワークも醸成され、全国区の強豪にも真っ向から太刀打ちしてみせた。猛者の鼻を明かすまではいかなかったが、麻布の10戦士たちは、野球の醍醐味や学童野球の素晴らしさの一端を提示してくれた気がしてならない。

戦前のシートノックはボールと道具類をフル活用し、全10選手が守備に㊤。5回裏のピンチでは選手だけでのタイムも㊦

5年目の木下監督の下、学童ラストイヤーを迎えた新6年生たちは「質を上げましょう!!」という阿曽主将の第一声でスタート。この準決勝に続く3位決定戦も山野ガッツ(埼玉)に0対7で敗れたが、「港区で勝って、マクド(全日本学童)の都大会に絶対行きたい!」と吉本の鼻息は荒い。
その目標を叶えるには高輪クラブ、本村クラブといった都大会でよく聞く名前にも勝つ必要がある。2026年も東京はハイレベル。そして港区も熱い!
